経験談

ダイエット禁止?「心臓病患者」ならではの私の美容術

文:﨑山 みゆき

「ペースメーカーの周りが痛くて…。出っ張ってきているようなのですが?」
「あ、確かに。これ、出てきちゃっていますね。」

真顔で医師が触診し、即答しました。

「えっ??出てきた?」

 さすがの私も、おろおろしてしまいましたが原因は、やせたことだそうです。丸顔、長身なので分かりにくいですが、もともと細く、現在BMIは16。ちょっとスマートすぎ。
(※BMI(ボディマス指数)=体重kg÷(身長m)2 WHO基準、標準=18.50〜24.99)

 後期高齢者の方の中には、皮下脂肪や筋肉量が減少し、ペースメーカーが皮膚を破ってしまうケースもあるそうです。
血は出てくるのかな、痛そう…。

「先生、今のうちにペースメーカーを痛くない場所に埋め込みなおすことはできませんか?」
「できません。」

そっけない返事に、がっくりと肩を落としました。
ただし、解決策が一つあるとのこと。身を乗り出して聞いてみると、

「太ってください。」と一言。

 50代後半になった今、20代のころのように別腹が健在なはずもなく、困りました。あーあ…あの頃は夕食の後にケーキを二つ食べていたのに。今は、おやつを食べると夕食が食べられなくなるので我慢するほどに落ちぶれて(?)しまいました。なおかつ、日々続く胸の激痛ストレスと晩酌のためか、逆流性食道炎は慢性化。朝食はのどを通りません。
あぁ、難題。
 
 心臓リハビリで運動をしていると回復に効果があり、生活の質(QOL)が上がるというデータがあります。1
 そのために、私は筋トレ・ピラティスなどに一生懸命取り組みました。ただし、適度な体力・筋力があることが前提です。ここをすっ飛ばしてしまったので、私の身体は耐えられません。
 「太ってからにしてくれー」とストライキを起こして、痛みを起こしたようです。

 ペースメーカーを埋め込んでから、気が付いたことがあります。それは、私の身体は、体力の消耗が激しい身体に代わってしまったのだということです。もともと心臓病ですから、疲れやすいことは言わずもがなですが、ペースメーカーという新しい臓器を維持してあげるために、今まで以上に体力が必要になったのです。これに気が付く人は、少ないように感じています。特に当事者以外の方の大半は「ペースメーカーを入れたのだから元気になった」と誤解しています。
ではどうすればいいのか?
ペースメーカーを支えるために、筋肉をつけてなくてはいけません。ダイエット本でよく言われている「食事は野菜を先に、肉は後」ではなく、「食事は、肉を先に、野菜は後」を実践します。
但し、脂質異常や太り過ぎが原因で心臓病になった方は別ですが…。

 女性のスマート信仰は、未だ根強く残っています。電車の中では「三か月で〇キロ痩せました!リバウンドなし」などと笑顔で水着姿を披露している女性のポスターが、後を絶ちません。しかし、彼女たちと私たちは、別の世界で生きています。私たちに必要なのは、痛みがなく生きていること。そこで初めて、素敵な笑顔でいることができます。私たち「心臓病患者の美容術」とは、身体がやせることではありません。心身ともに、痛みがなく、豊かでふくよかな生き方ではないのでしょうか。
 目下、私の課題は体重増加。二つの取り組みを始めています。一つ目は、必す朝食をとること。二つ目は、週二回、夫に夕食を作ってもらうこと。我儘も言えず、何でも食べるようになりました。尚且つ、体力も温存できます!

※写真は西表島のカヌー漕ぎ。心が先に太り始めたようです。

  1. 参考:2021年改訂版 心血管疾患におけるリハビリテーションに関する ガイドライン
    https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf ↩︎

<この記事を書いた人>
当事者メンバー 﨑山 みゆき