経験談

病気になったおかげで

文:柴田 富美子

病気になったおかげで、私は「今がある」と思えるようになりました。
ところでみなさんは「内部障害」「外部障害」という言葉をご存知でしょうか。
私は2年半ほど前に、2回目の心臓手術で人工弁の置換術を受けてから初めて知りました。
手術を受けたら、手術を受ける前のように元気になれると思っていた私は、術後不整脈や動悸、めまいに悩まされてとても落ち込んでいました。そんな時、友だちは「元気やん」「そんな手術したように見えない」と言ってくれ、嬉しくなります。その反面、血液をサラサラにする薬を飲んでいるため怪我をした時は気をつけなければいけないけれど、もし意識がない時はどうなるのかと不安に思うこともあります。
一過性脳虚血発作を起こす時もあり、脳梗塞のように手足に麻痺や視野障害が数分間出るため車の運転も控えているのですが、見た目は「元気」です。これが「内部障害」です。
「いかにも病人」ではなく、明るく元気にしていたいけれど、必要な時には病気の事を説明しないとわかってもらえない・・。最初はあまり気が進みませんでしたが、見た目にはわかりにくい「内部障害」があることを伝える「ヘルプマーク」を今はかばんに付けるようにしました。

 そんな生活にも慣れてきた今年4月、足首の手術をしました。退院後は自宅で松葉杖の生活が始まりました。月に何回か電車で通院する時、松葉杖をついていることで、周りの人には「私は足が悪い」ということが一目で伝わります。これが「外部障害」です。
ホームに高校生が溢れていてもサーッと道を空けてくれます。電車の中でもためらいもなくスッと立って席を譲ってくれます。
「今どきの若い子は・・」と呆れることもありますが、さっと動いてくれるのには感心します。
まさか自分が、この「内部障害」「外部障害」両方を体験することになるとは思ってもいませんでした。でも知ることができたのは病気になったからこそ。ほんわかと温かい気持ちにさせてくれるやさしさに触れることもできました。

 4年前に1回目の心臓手術(弁形成術)をしました。半年後に再発し人工弁置換術をして、その後偏平足の変形が進んで歩くことも儘ならない状態になりました。昨年「マルファン症候群」という遺伝性の病気であることがわかり、今後も心臓弁や手足関節、血管など、体の結合組織のもろさが進行していくとのことでした。病名がわかっても効く薬はまだありません。
 それでも元気いっぱいの孫たちと遊びたい、スポーツもしたいと足首の手術に踏み切りました。右足首には6本のボルトが入っています。今はリハビリ中ですが、長い間苦しんだ痛みから解放され、孫とバドミントンの対決をするのが楽しみです。

手の指の関節もすぐに脱臼してしまうのですが、予防のサックをつけてフルートやピアノの練習をしています。そして喫茶店などでミニコンサートをさせてもらう計画を立てています。フルートアンサンブル、ピアノ&フルート、ピアノ弾き語りなどに加えて私の経験を伝えていきたいと思い、文章の組み立て方や話し方などもこれから勉強したいです。やりたいことがどんどん膨らんでいきます。
 病気になって「これができない」「あれができない」ではなく、無理は禁物ですが『これはできる!』『工夫すればできるようになる』と、これからも新しい『できること』を見つけて挑戦していきたいと思っています。
でも疲れやすく激しい運動はできません。これからどのような合併症が出るかもわかりません。突然心臓が止まってしまうのかな、体の麻痺が治らずに寝たきりになるのかな・・考えれば不安ばかりです。
大谷翔平選手は「今何ができるか」と努力を積み上げて今があると言っていました。比較にならないかもしれませんが、私も今の自分ができる事に夢中になりたい、ワクワクとした気持ちを大切にして日々を過ごしていきたい。
病気になったおかげで今があると思えるよう、これからもいろいろなことに挑戦していこうと思います。

◆本コラムは、with Heartプロジェクトで開催したライティング講座を受講された方のコラムです

<この記事を書いた人>
当事者メンバー 柴田 富美子